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『Zero at the Bone』後篇の後篇

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『Zero at the Bone』後篇の後篇


欣二 どこへ行くんじゃ?

隆弘 帰るんですよ。

欣二 ケンケンに礼も言わずにか?

隆弘 うるせえ、ダジャレじじいめ!

欣二 こいつめ、とうとう仮面の下のドロドロをむき出しにしおったな。

隆弘 くたばれだ。

(隆弘が帰ろうとして背中を向けた瞬間、欣二は隆弘の足を右手で軽く払う。バランスを崩した隆弘は、壁に頭をぶつけて意識を失い、その場にヘナヘナと倒れ込む。)

隆弘 うう…

欣二 おい安田、しっかりせんか。

隆弘 うう…

健太郎 どうしたんです。

欣二 馬鹿が急に意識を失いおったわい。

健太郎 ちょっと見せていただけますか。

(健太郎は、片膝をついて隆弘の顔をのぞき込む。)

欣二 どうじゃ?

健太郎 隆弘さんって、癲癇持ちではないですよね?

欣二 癲癇は聞いたことがないのう。

健太郎 そうですか。では、相撲のテレビ中継を見ながら変な意味で興奮したことは?

欣二 それは聞いたことがある。

健太郎 (険しい顔で)では、ヒューグラントの切り抜きを集めていたことは?

欣二 こいつもあるし、正直わしもある。

健太郎 あなたのことはどうでもいいんですよ!

欣二 「ロードショー」世代だから❤

健太郎 とにかく、まずいですね。

欣二 そんなに悪いのか?

健太郎 ぶっちゃけ、今夜が山だと思います。(隆弘のまぶたを押し広げて)見て下さい、この人の瞳を。まるで思春期の女子みたいに、たくさんの星がキラキラしているのが分かりますか?

欣二 おお、確かに。何じゃ、これは?

健太郎 これはいわゆる、きまぐれオレンジ☆ロード症候群と呼ばれるものだと思います。

欣二 きまぐれオレンジ☆ロード症候群?

健太郎 自分もよくは分からないのですが、進行すると性格が恐ろしくきまぐれになると聞いたことがあります。

欣二 きまぐれな性格に?そいつはいかん。こいつはただでさえ性格的にオッチョコチョイのスットコドッコイじゃからな。そこへもってきて、きまぐれが加わったりしたら―

健太郎 (うなづいて)そんな猫みたいな性格の男を、あっち系の男が放っておくわけがないですからね。(隆弘のシャツのボタンを外して)しかも、これを見て下さい。たった今気がついたのですが、ほら。

欣二 おお、こいつめ、いつの間にヌーブラを!オッチョコチョイのスットコドッコイに飽き足らず、ヌーブラにまで手を出しおったか。このド変態め、隅に置けん奴じゃ。

健太郎 おまけに趣味に至っては、フィギュアの解体ですからね。

欣二 そうじゃった、そうじゃった。

健太郎 とにかく、一刻も早く目を覚まさせてここから運び出さないと。

欣二 うむ。こんな不気味な男がぐうぐう寝ておったら、店にも迷惑じゃからな。

健太郎 (隆弘の体を揺さぶって)安田さん、起きて下さい。

欣二 これ安田、起きるんじゃ。

隆弘 うう…

健太郎 安田さん、しっかりして下さい。ねえ、起きて下さいよ。

隆弘 うう…

健太郎 もうちょっとなんだけどな。

欣二 ちょっとそこをどいてもらえるかな。

健太郎 何か秘策でも?

欣二 こいつのことは、わしが一番よく知っているんでね。

健太郎 お願いします。

欣二 (隆弘の耳元に口を近づけて)月にかわっておしおきよ!

隆弘 (むくりと体を起こして)おしおきされたい…

健太郎 起きた!

隆弘 (キョロキョロして)ここはどこだ?

欣二 危ないとこじゃったわい。

隆弘 (寝ぼけまなこで)欣二さん、僕はここで何を?

欣二 わしは欣二ではない。

隆弘 えっ?

欣二 おぬしとわしは、遠い惑星から来たミー&ケー型エイリアンなのじゃ。

隆弘 ミー&ケー?

欣二 そうじゃ。

隆弘 何も思い出せない…

欣二 (隆弘の左手を引っ張って)ほれ、立つんじゃ。

隆弘 (右手で頭を押さえながらゆっくり立ち上がって)どこへ行くんです?

欣二 地球の男にあきあきしたから、故郷のアクユウ星に帰るんじゃ。

隆弘 アクユウ星?

欣二 そうじゃ。

隆弘 変だなあ、本当に何も思い出せないぞ…

欣二 おぬしはシンナーのやり過ぎで、一時的に記憶喪失になったのじゃ。

隆弘 シンナー?

欣二 (隆弘の手を引っ張って)理由はええから、ほれ、さっさとここを出るんじゃ。

隆弘 どこへ行くんです?

欣二 だからアクユウ星に帰るんじゃよ。

隆弘 (抵抗して)いやだ!

欣二 言うことを聞かんか。

隆弘 僕はミーなんかじゃない、安田隆弘だ!

欣二 馬鹿者、おぬしはミーじゃなくてケーの方じゃ。

隆弘 嘘だ!

欣二 こいつめ、手を焼かせおって。

隆弘 (頭を抱えて)何がどうなっているんだ…

欣二 ケンケン、すまんが手を貸してくれんか。

健太郎 お安いご用です。

(欣二と健太郎は両脇から隆弘を抱きかかえて、無理やり外に連れ出そうとする。)

欣二 ほれ、行くんじゃ。

健太郎 ケーさん、行きましょう。

隆弘 (暴れて)やめろ!

健太郎 向こうにピンク色のレオタードも用意してありますから、心配しないで下さい。

隆弘 レオタード?

欣二 しかも、お前さんの好きなスパンコールつきのやつじゃ。ほれ、行くぞ。

隆弘 いやだ。僕はエイリアンじゃない―僕は人間だ!

欣二 ほれ、来んか。

健太郎 レオタードが着れなくなりますよ。

隆弘 僕はれっきとした人間だ、ピンク色のレオタードなんか死んでも着ないぞ!

欣二 さあ、出るんじゃ。

隆弘 いやだ!

健太郎 さあ、ここを出ましょう。アクユウ星に帰るんです。

隆弘 はなせ!

欣二 言うことを聞かんか。

隆弘 いやだ!

欣二 ほれ、歩かんか。

隆弘 畜生、俺に触るな!

欣二 ほれ、行くんだ!

隆弘 ああ、神様!

(抵抗も空しく、隆弘は個室の外に連れ出されてしまう。三人が部屋を出るとほぼ同時に、テーブルの上に置き忘れた健太郎の携帯が音を立て始める。遠くから食器を片づけるガチャガチャという音がかすかに聞こえる。手に台布巾を持ったウエイトレスが入って来る。携帯の音が止む。)
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―幕―





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by bari-era | 2014-06-29 02:00

『Zero at the Bone』後篇の前篇

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『Zero at the Bone』後篇の前篇


隆弘 (立ち上がって)僕はもう帰りますよ。これ以上いても時間の無駄だ。馬鹿馬鹿しい。

欣二 またカッカしおってからに。

健太郎 (立ち上がって)待って下さい。

欣二 おっ、どうしたケンケン?

健太郎 最後にどうしてもお話しておきたいことがあるんです。

隆弘 そんなこと言って、どうせまた冗談めいたことを言って我々をはぐらかすんでしょ。

欣二 おぬしは何てことを言うんじゃ。

隆弘 だってそうじゃないですか。

健太郎 そう思われても仕方ないかもしれませんが、本当にこれが最後ですので、だまされたと思ってもう少しお付き合いいただけないでしょうか。このまま帰られたら、僕としても心苦しいですし。

欣二 ケンケンがこう言ってるんだ。

隆弘 でも…

欣二 でもも糞もあるか。ほれ、座るんじゃ。

隆弘 分かりましたよ。ただし、またぞろ実のない話だったら、その時は―

欣二 (うなづいて)わしがゴチるから。

隆弘 焼き肉で。

欣二 分かった、分かった。

隆弘 (腰を下して)では、おつき合いいたします。

欣二 ほんにおぬしは現金な男じゃな。

隆弘 それは否定しません。

欣二 (健太郎に)では、フィナーレを飾るにふさわしいやつをお聞かせいただけるかな。この通り、焼き肉がかかっているんでね。

健太郎 期待にこたえられるかどうか分かりませんが、真実見たままを正直にお話したいと思います。

欣二 うむ。では、よろしゅう頼むわい。チン○ン、録音はええな?

隆弘 だから、言われなくても分かってますって!

欣二 おー、こわっ。

健太郎 いいですか?

隆弘 お願いします。

健太郎 (ライターを指先でもてあそびながら)僕が居酒屋に入った時にはすでに、深夜の一時を回っていましたが、その時居合わせた年輩の男はものの三十分もすると店を出て行ってしまい、すると今度は、その男と入れ違うように、並びにあるCで始まる名前のカフェ店主が、これがまた恐ろしく目つきの悪い男でしたが、ピンク色のレオタードを着たひどく小柄な男を連れて店に入って来ました。

欣二 ピンク色のレオタードを着た小柄な男といえば、さっきも話に出たな。

隆弘 それって、ケンケンさんが路上で見かけた人と同一人物ですか?

健太郎 分かりませんが、可能性は高いと思います。

欣二 なるほどな。

隆弘 そのピンク色のレオタードを着た男ですが、ほかには何か特徴はありましたか?

健太郎 目が異常につり上がっていたのを覚えています。

欣二 異常なつり目?

健太郎 ええ。それから、日本語がうまくしゃべれないのか、所々ぼそぼそと聞きなれない言葉をしゃべっていました。

欣二 聞きなれない言葉?

健太郎 そうです。英語でも仏語でも独語でもない、今までに聞いたことのないような言語でした。

隆弘 なるほど。

欣二 で、そのカフェ店主とは何を話していたんじゃ?

健太郎 話していたというより、カフェ店主が一方的に愚痴っていたという感じでした。

欣二 愚痴ねえ。

健太郎 ピンク男の肩に手をまわしながら、「腰がいてえ」とか「胃がいてえ」とか「喉がいてえ」とか、そんなことばかり言ってましたから。

隆弘 そのカフェ店主はかなり酔っていたんですか?

健太郎 桜祭りということもあって、だいぶ酔っているみたいでした。

欣二 典型的なからみ酒じゃな。

隆弘 ところで、その二人はどんな関係なんですか?

健太郎 どうやらその日が初対面だったようです。

隆弘 直接聞いたのですか?

健太郎 ええ。僕も酔っていたので、勢いで二人の会話に無理やり入り込んだのですが、その時カフェ店主に聞いたところによると、どうやらピンク男は川沿いを一人で何時間もうろうろ歩き回っていたみたいで、不審に思ったカフェ店主が、半ば強引に並びの居酒屋に連れ込んだみたいです。

隆弘 カフェ店主は、何のためにそんなことをしたんでしょうかね。

欣二 何か面白いネタを期待していたか、もしくは単なるピンク好きの変態と考えるのが妥当じゃろうな。

隆弘 なるほど。

欣二 で、その後はどうなったんじゃ?

健太郎 しばらくカフェ店主が一方的にしゃべりまくっていたのですが、ピンク男が押し黙っているのにうんざりしたようで、その内にカフェ店主は一人でカラオケを始めました。

欣二 カラオケねえ。

隆弘 その間、ピンク男はどうしていたんですか?

健太郎 喉の奥をヒューヒュー言わせながら、カウンターの椅子におとなしく座っていました。

隆弘 喉をヒューヒュー言わせて?

健太郎 ええ。それがまるで機械音のような不気味な音で、居酒屋の店主もけげんそうな顔でピンク男をチラ見していました。

欣二 機械音のようなねえ。

健太郎 そうです。今まで聞いたことのないような不気味な音でした。

欣二 なるほどな。で?

健太郎 しばらく黙り込んでいたピンク男ですが、カフェ店主がある曲のデュエットを持ちかけた途端に、「クソ野郎メ」とか「クタバリヤガレ」とかひどくつたない日本語で悪態をつき始めたので、居酒屋の店主が間に入ってまあまあとなだめにかかったのですが、ピンク男の方は興奮がおさまらないみたいで、しつこくカフェ店主をののしり続けていました。

欣二 ピンク男がついにキレおったか。で、そのある曲っていうのは?

健太郎 バービーボーイズの「わがままエイリアン」です。

隆弘 「わがままエイリアン」のデュエットを拒んだ!(興奮して欣二に)これはもう間違いなく―

欣二 (うなづいて)間違いない、そやつこそは、わしらが長年探し求めていた、デュエット下手なピンク色のレオタードを着たちっちゃいオッサンじゃ!

隆弘 逃げたな!

欣二 で、その後はどうなったんじゃ?

健太郎 しばらくピンク男とカフェ店主の間で歌え歌わないの押し問答が続いたのですが、その内に騒ぎを聞きつけた近所の店のマスター達がぞろぞろ入って来て、これがまたどいつもこいつもガラの悪そうな連中でしたが、彼らが結託してピンク男をなぶり始めたのです。

欣二 集団リンチか。で?

健太郎 最初は防戦一方のピンク男でしたが、おもむろにカウンターの上の焼酎の瓶を手に取って床に叩きつけると、こう絶叫したのです、「仲間ヲ呼ンデ皆殺シニシテヤル」って。

隆弘 皆殺しとは穏やかじゃないですね。

欣二 確かにな。で、どうなったんじゃ?

健太郎 ピンク男が瓶を叩き割った際に飛び散った破片で、マスターの内の一人が足を負傷したのですが、それが引き金となって彼らが完全にブチ切れてしまい、元々喧嘩っ早いのが揃っていたのでしょうが、哀れなピンク男はその凶暴な連中に袋叩きにされてしまいました。

欣二 袋叩きに?

健太郎 ええ。

隆弘 (肩を落として)死ぬほど貴重な標本に対して何ということを…

健太郎 その時僕が驚いたのは、ピンク男の鼻からどろどろした緑色の血がしたたっていたことです。

欣二 緑色の鼻血ねえ。

隆弘 (興奮した面持ちで)欣二さん、これはもう疑いようもなく―

欣二 (うなづいて)正真正銘のエイリアンじゃ。

隆弘 (震えて)畜生、やっぱり存在したんだ!(健太郎に)で、その後どうなったんです?

健太郎 満身創痍のピンク男でしたが、どうにかマスター連の手から逃れると、右手に巻いていた金属製のブレスレットのようなものを指差しながら、「今カラコレデ仲間ヲ呼ブカラナ」と言い放ちました。

欣二 ブレスレット型とは、シャレた通信機じゃわい。

隆弘 で、どうなりました?

健太郎 実際その手に巻いたやつで仲間を呼ぼうとしたみたいなんですが、それをいじる前にCカフェ店主の豪快なドロップキックが飛んで来て、ピンク男は店の外にあっさり弾き出されてしまいました。

隆弘 野蛮人が何てことを!

欣二 で?

健太郎 どうやらその時の衝撃でブレスレットが壊れてしまったみたいで、哀れなピンク男は、「モウ仲間モ呼ベナイシ故郷ニモ帰レナイ。深夜ノ牛丼スキ屋デアルバイトスルシカナイアルヨ」とベソをかいていました。

隆弘 すき屋でバイトが悲惨過ぎる…

欣二 で、最後はどうなったんじゃ?

健太郎 その場にいた全員で対応策を話し合ったのですが、最終的には今度の騒ぎの主犯格ということでCカフェ店主に白羽の矢が立ち、ピンク男を責任をもってハローワークに紹介するということでとりあえず話がまとまりました。

欣二 なるほどな。

隆弘 (身を乗り出して)で?

健太郎 先日Cカフェ店主から聞いた話では、ピンク男はハローワークの約束もすっぽかして、その後二度と姿を現さなかったようです。

隆弘 (くずおれて)何てことだ…

欣二 (隆弘に)そうがっかりするなて。長い人生、生きてさえいればいずれまたどこかでピンク野郎にお目にかかれるはずじゃ。

隆弘 (むきになって)よくそんな悠長なことが言えますね。

欣二 だから、いずれまたどこかで―

隆弘 嘘だ!これまで世界中の研究者が死に物狂いであちこち探し回ったのに、いまだにただの一人も宇宙人を捕獲出来ていないんですよ。(頭を抱えて)文字通り千載一遇のチャンスだったのに、それがこんな形で駄目になるなんて…

欣二 宇宙人宇宙人言っておるが、そもそもおぬしは何のために宇宙人を探し求めているのじゃ?

隆弘 理由なんてどうだっていいでしょ。

欣二 ええから答えてみい。

隆弘 何のためって…夢とかロマンとか、まあそんなとこですかね。

欣二 嘘をつけ。しょせん、おぬしのそのちっぽけな虚栄心を満たすためじゃろ。

隆弘 うるさいな。だったらどうだって言うんですか。

欣二 宇宙人は妖精と同じで、子供の心を持つ人間にしか見えんのさ。残念ながら、おぬしは失格じゃ。

隆弘 (立ち上がって)畜生め!
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―後篇の後篇に続く―





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by bari-era | 2014-06-29 01:52

『Zero at the Bone』中篇

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『Zero at the Bone』中篇

(場所は前篇と同じ。健太郎は用を足すために、一時的に席を外している。欣二と隆弘は、煙草を吸いながら健太郎の帰りを待っている。)


隆弘 (疲れ切った声で)欣二さん、今日はもう諦めて引き上げませんか?

欣二 なぜじゃ?

隆弘 あの調子ですからね。これ以上続けたところで、有益な情報なんて聞き出せっこないですよ。

欣二 慌てるなて。

隆弘 でも…

欣二 そう心配せんでも、いよいよとなったら、身の毛がよだつような愉快な話が聞けるはずじゃ。

隆弘 僕にはとてもそうは思えませんけどね。

欣二 まあ、ええから。

隆弘 だいたい、欣二さんが一緒になってふざけてばかりいるからいけないんですよ。

欣二 (煙草をもみ消して)おぬしはわしと働いて何年になる?

隆弘 (けげんそうな顔で)5年ですけど。

欣二 5年ねえ。じゃあ、今更わしがどんな人間か説明するまでもないじゃろ。

隆弘 それがどうしたって言うんですか?

欣二 お前さんもよく知っての通り、わしはマジメさとは無縁な人間じゃからな。

隆弘 だから、何がおっしゃりたいんですか?

欣二 逆に聞くが、マジメぶって宇宙人が見つかると思うか?

隆弘 それとこれとは話が全く別じゃないですか。

欣二 どうかな。

隆弘 どうかなじゃないですよ。

欣二 とにかく、うわべだけのマジメさなんぞ糞くらえさ。

隆弘 仕事なんですから、マジメにやって当たり前じゃないですか。

欣二 分かった、分かった。

隆弘 (後ろを振り向いて)戻られたみたいだ。

欣二 (傍白)わしのデタラメさに、おぬしのそのマジメぶった仮面をぶち割られんよう注意せえよ。

(健太郎がトイレから戻って来る。)

健太郎 お待たせしました。

欣二 生理現象はどうにもならんからな。

健太郎 すみません、ちょっとおなかが冷えちゃって。

欣二 ウ○コか?

隆弘 わざわざそんなこと聞かなくたっていいじゃないですか。

欣二 冗談じゃよ。

隆弘 ほんと、余計なことばかり言って、しょうがない人だなあ。

健太郎 愉快でいいじゃないですか。

欣二 (健太郎に)早速じゃが、続きをお願い出来るかな。我々もこの後別の目撃者と会う予定があるんでね。

健太郎 どこまで話しましたっけ?

欣二 (隆弘を指差して)こいつが犬のウ○コに足を滑らせて後頭部を強打したとこまでじゃよ。

隆弘 ちょっと!

健太郎 そうでした、そうでした。

隆弘 もう、ケンケンさんまで!

欣二 その時頭の中に星が飛んで、それが原因で宇宙に目覚めたんじゃろ?

隆弘 (ぶ然として)違いますよ。

欣二 怒っちゃった?

隆弘 当たり前じゃないですか。

欣二 悪かった、悪かった。(健太郎に)冗談はさておき、ほれ、凍るような手をした何者かに騒がしくて狭苦しい場所に連れて行かれたところまでさ、我々が聞いたのは。

隆弘 ああ、そうでしたね。

欣二 (隆弘に)録音はええな?

隆弘 (プリプリして)ちゃんとやってますって。

欣二 おー、こわっ。

隆弘 では、ケンケンさん、お願いします。

欣二 まずは、いつどうやってそこを出たのか話してもらえるかな。

健太郎 それが、全く覚えていないんです。

隆弘 全然ですか?

健太郎 ええ。

欣二 記憶喪失か。

健太郎 いつの間にか外に出ていたみたいで、ひょっとしたら誰かに運び出されたのかもしれませんが、目が覚めた時には道端で大の字になって伸びていました。

隆弘 冷たい手をした何者かに外に運び出されたと?

健太郎 そうだと思います。

欣二 しかし、おぬしは外で寝るのが好きじゃな。

健太郎 (照れて)そう言われても仕方ないかもしれませんね。

隆弘 場所はどの辺りになりますか?

健太郎 イセザキモール沿いにある電気屋の店先です。

欣二 で?

健太郎 意識を取り戻した頃には酔いもだいぶさめていましたので、とりあえず川沿いに向かって歩いて行きました。

欣二 まだ飲み足りなかったのじゃろ?

健太郎 (照れて)ええ、まあ。

欣二 で?

健太郎 身の毛もよだつような恐ろしい体験をしたのは、まさにその時、歩き出してすぐのことでした。

欣二 (目を細めて)身の毛もよだつじゃと?

健太郎 ええ。

隆弘 (小声で欣二に)いよいよですかね?

欣二 (うなづいて)だから言ったじゃろ。

隆弘 で、何があったんです?

健太郎 (険しい目つきで)信じてもらえないかもしれませんが、歩き出して間もなく、小型の円盤のようなものに乗った、全身毛むくじゃらの見たこともないような生物が目に飛び込んで来たのです。

欣二 小型の円盤に乗った毛むくじゃらの生物?

健太郎 ええ。

隆弘 (小声で欣二に)新種のエイリアンじゃないでしょうかね。

欣二 (身ぶるいして)…

健太郎 でも、よく見るとそれは―

隆弘 (身を乗り出して)それは?
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健太郎 フライパンの上でリラックス中の猫でした❤

隆弘 (肩を落として)にゃんこ…

欣二 (額の汗をぬぐって)毛むくじゃらが小型の円盤でリラックスって言うから、てっきりうちのワイフかと思って焦ったわい。

隆弘 あんた一体どんな人と結婚してるんですか!

欣二 (遠い目で)あのスワン・ボートでのファーストキス事件以来、彼女は激変してしまったのじゃ。

隆弘 その時の女か…

欣二 オシャレ渋谷ギャルしていた彼女も、あの忌まわしいスワン・ボート事件以後は、四六時中フェイクファーのコートに身を包み、円座クッションの上で日がな一日瞑想をしているだけの女に成り果ててしまったのじゃ。

隆弘 あの忌まわしいスワン・ボート事件って、そもそもあんたが手を出したんでしょ!

欣二 (額の汗をぬぐって)猫だけに、身の毛もよだつ話だったわい。

隆弘 うまいこと言おうとしてるし…

健太郎 さっきから紛らわしいことばかり言ってごめんなさい。

欣二 ええんじゃよ。そもそも、大量の石の山から玉のカケラを見つけ出すのが、我々の仕事じゃからな。玉だと思ったら石だったなんてのは、しょっちゅうさ。

隆弘 それはそうですけど、欣二さんが一緒になってややこしくしなくてもいいじゃないですか。

欣二 またマジメぶりおって。

隆弘 マジメで悪かったですね。

欣二 わしは今、マジメぶってると言ったんじゃ。

隆弘 僕は僕なりに一生懸命やってるじゃないですか。

欣二 どうかな。

隆弘 何です?

欣二 何がじゃ?

隆弘 いえ、別に…

欣二 (健太郎に)話はこれで終わりかな?終わりなら、わしらも次の予定があるので、お開きにしたいのじゃが。

健太郎 いえ、実はまだお話したいことがあるんです。

欣二 それは我々にとって有益な話かな?

健太郎 多分。

欣二 ほお。では、せっかくだから続きをお聞かせ願おうかな。

隆弘 ケンケンさん、今度こそ期待していますよ。

健太郎 ええ。

欣二 楽しみじゃわい。

健太郎 (煙草に火をつけて)さっきも言った通り、どこかで飲み直そうと思って川沿いに向かったのですが、さすがに屋台はどこも撤収していたので、とある一軒の小さな居酒屋に入ることにしました。

隆弘 初めての店ですか?

健太郎 はい。川沿いに何軒かの飲食店が連なっているエリアがあるのですが、僕が入ったのはその内の一軒です。

欣二 なるほどな。で?

健太郎 そこは初老の店主が一人で切り盛りしている、カウンターだけの小さな店で、自分が入った時にはお客は誰もいなかったのですが、すぐに店主と同い年くらいの年輩の男がふらりと入って来て、自分の隣の席に座りました。

欣二 その男は?

健太郎 決して怪しい人物ではなかったですが、その男がメニューを見るなり、「おっ、ここは焼きソバがあるのか。じゃ、おじさん男だから、メーン食べちゃおうかな!」とダジャレをぶちかましてきたので、自分もすかさず「じゃあ、自分にはスコッチをほんのスコッチ!」とやり返して、格の違いを見せつけてやりました。

隆弘 (うなだれて)そんなベタな争いどうでもいいし、そもそもUFOと何の関係もないし…

欣二 (目を光らせて)スコッチをほんのスコッチ?

健太郎 (照れて)ええ、まあ。

欣二 (感心して)たとえそれがグルーチョ・マルクスの持ちネタだとしても、やりおるな。

健太郎 やはり、ケンケンさんの目はだませないですね。さすがだ。

欣二 見知らぬ人間の冗漫なオヤジギャグに対して、俳句的な簡潔さで果敢に戦いを挑んだおぬしのその勇気と引用の才は、なかなかのものじゃ。それに、いかにもな場末の居酒屋でスコッチネタを持ち出す辺りも、皮肉が効いててオツじゃわい。惜しむらくは、季語が抜けていることじゃな。

健太郎 確かに。でも、あの時の自分には、あれが精一杯でした。

欣二 ふむ。

健太郎 ほかにどんなのが考えられたでしょうか?

欣二 こんなのはどうじゃな。

健太郎 お願いします。

欣二 (目を閉じて)「閑(しずけ)さや 岩にしみ入る ラフロイグ」

健太郎 おおっ!芭蕉的枯淡の境地に誘うかと見せておきながら、結びで一気にアイラ島の風を吹かせるとは! まさに匠の技だ。

欣二 おぬしも一句どうじゃ。今度こそはオリジナルなやつでな。

健太郎 いえ、僕なんかキンキンさんの足元にも及びませんよ。

欣二 謙遜しても無駄じゃよ。おぬしがなかなかの手だれだということは、キンキンお見通しじゃわい。ほれ、読んでみい。

健太郎 それでは一句。

欣二 うむ。

健太郎 「古池や 蛙(かはづ)飛びこむ ラフロイグ」

欣二 なるほど、そうきたか!

健太郎 アードベックやボウモアだと字数的におさまりが悪いので、思い切ってラフロイグを使い回してみました。

欣二 普通二度目は喜劇にしかならんものだが、おぬしのはなかなかの出来栄えじゃ。

健太郎 ここで言う蛙は―

欣二 わざわざ説明せんでも、擬人化の技法を駆使していることくらい、キンキンお見通しじゃわい。

健太郎 さすがです。

欣二 モルトのプールで溺れ死にたいというノンベエどもの夢をこれほど簡潔に、そしてまたこれほど情緒豊かに歌い上げた例はついぞ見たことがないわい。
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隆弘 (イライラして)二人ともいい加減にして下さいよ!

欣二 何だおぬしは、また水を差す気か。

隆弘 何が水を差すですよ。俳句だなんだって、そんなの我々の仕事と何の関係もないじゃないですか。

欣二 ほんにおぬしは芸術を解さん無粋な男じゃな。

隆弘 芸術なんか糞くらえだ。

欣二 キャンキャン言ってないで、バーボンでもワインでも何でもええから、試しにおぬしも一句読んでみい。

隆弘 何でそんなことしなければいけないんですか。

欣二 どうせ読めんのじゃろ?

隆弘 それくらい、僕だって出来ますよ。

欣二 では、読んでみい。

隆弘 分かりましたよ。その代わり、恥ずかしい思いをしても知らないですからね。

欣二 恥ずかしい?

隆弘 実力の差にですよ。

欣二 言うではないか。

健太郎 これは楽しみだ。

隆弘 いいですか?

欣二 うむ。

隆弘 (咳払いをして)「柿くへば 鐘が鳴るなり 大五郎」

健太郎欣二  …

隆弘 (うろたえて)どうしたんです?

欣二 (悲しげに)わしは今日ほど生きているのが恥ずかしく感じたことはなかったわい。(健太郎に)おぬしはどう思う?

健太郎 正直、ショックでした。背筋が凍るような衝撃と言ったらいいのか…

隆弘 そこまで言わなくてもいいでしょ!

欣二 馬鹿者、ダジャレの世界はそれくらい厳しいのじゃ。

隆弘 俳句じゃねえのか…

欣二 ケンケン、よかったらもう一句詠んでみてくれんかのう。こやつのせいで、すっかり後味が悪くなってしまったのでな。言わば口直しじゃ。

健太郎 いいんですか?

欣二 (うなづいて)寸鉄人を刺すようなのを頼むわい。

健太郎 では、一句。

欣二 (目を閉じて)うむ。

健太郎 「純JUN純JUNしちゃった❤」

欣二 (目を見開き、テーブルを叩いて)見事だ!蕉風にとどまるかと思いきや、一気に自由律まで駆け抜けて行きおったわい。ハートマークの使い方も完璧じゃ。同じ格安焼酎をチョイスしながら、こうも出来栄えが違うとはのう。(震える手で煙草に火をつけて)この坊や、マジでやりおるわい。

隆弘 (ふてくされて)感心するような出来ですかね。その程度のものなら、僕だって読めますよ。

欣二 おっ、言うではないか。では、おぬしにラストチャンスをやるから、わしらをうならせるようなすごいやつを読んでみい。

隆弘 腰を抜かしても知らないですからね。

欣二 タワ言はええから、さっさと読んでみい。

隆弘 耳の穴かっぽじってよく聞いてて下さいよ。

欣二 分かった、分かった。

隆弘 (新呼吸して)では一句。

欣二 うむ。

隆弘 「ラッセン見ても一人❤」

欣二健太郎 …

隆弘 (動揺して)これはですね、ある独身の中年男が、家族連れやカップルで賑わったラッセンの展覧会に一人で出かけてですね、そこで感じた海のように深いロンリネスを―

欣二 (隆弘の手の甲に煙草の火を押し当てて)シャラーップ!

隆弘 (飛びのいて)あちいっ!

欣二 神をも畏れぬ不届き者め。

隆弘 俺が不届き者なら、あんたは人殺しだ!(手をさすって)おー、あちっ。

欣二 おぬしが真のダジャレ研究者なら、素直に負けを認めるのじゃ。 

隆弘 ダジャレじゃねえ、UFOだ!

欣二 ダジャレもUFOも同じじゃよ。
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―後篇に続く―

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by bari-era | 2014-06-27 00:07

純不純喫茶 “ Canti ”   ペンダントライトを打ち鳴らせば、寂滅為楽の響きあり。もっとカラッポに。アーメン。
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