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『Zero at the Bone』前篇

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『Zero at the Bone』

2014年4月某日の夕刻から翌日未明にかけ、横浜市上空で謎の飛行物体が多数目撃されたとの報告を受けて(後に『Zero at the Bone事件』と命名)、民間の空中現象調査委員会が横浜市各所に調査員を派遣。これは横浜市中区某所で行われた聞き取り調査の詳細な記録である。



目撃者 片岡 健太郎(仮名30代 自営業 独身)
調査員A 鮫島 欣二 
調査員B 安田 隆弘 


(とある喫茶店の個室。欣二と隆弘、そしてテーブルをはさんだ向かい側に健太郎が腰掛けている。テーブルの上には、人数分のコーヒーカップが置かれている。時刻は正午。)


隆弘  本日はお忙しい中わざわざ出向いていただきありがとうございます。

健太郎  いえ。

欣二 大助かりじゃわい。

隆弘  何せ事件が事件ですからね、口を閉ざす方が多くて…

健太郎  報酬につられただけですから。

欣二 薄謝過ぎて心苦しいがのう。

隆弘  正直なところ、文明堂のカステラ一本ですからね。

健太郎  冗談ですよ。単にこういうのに昔からちょっと興味があっただけです。

隆弘  時間もないので、早速聞き取りを始めさせていただきたいのですが、その前にですね、よろしければ宣誓していただけないでしょうか?

健太郎  宣誓?

欣二 (隆弘に)急にそんなこと言ったって分かるわけないじゃろ。(健太郎に) ほれ、嘘はつきませんってやつさ。

健太郎  ああ、あれですか。そんなのはお安いご用です。

隆弘  ありがとうございます。

欣二  こう見えて、我々も結構マジな組織なんでね。(隆弘に)録音はええな?

隆弘  ばっちりです。(健太郎に)では、よろしくお願いします。

健太郎  えー、わたくし片岡健太郎は、このたびの事件に関して、真実を、真実そのものを、そして真実だけを語ることをここに宣誓いたします。こんな感じでいいですか?

欣二  うむ。十分じゃ。(隆弘に)では、次はおぬしの番。

隆弘  はい。えー、わたくし安田隆弘は、もう二度と萌え系フィギュアの手足をバラバラにしないことを…(慌てて)ちょっと、何で急に僕にふるんですか!

欣二  ジョークじゃよ。しかし、あれだな、図らずもおぬしの怪しい趣味が露呈したな。

隆弘  (照れて)いいじゃないですか、僕がどんな趣味を持っていても…

欣二  恐ろしく風変わりな趣味じゃがな。

隆弘  僕は変態じゃありません。

欣二  まあ、ええわい。では、健太郎君、早速話していただこうかな。こやつの言う通り、我々も時間がないんでね。

健太郎  ケンケンで。

欣二  おお、そうか。じゃ、わしのこともキンキンと呼んでもらって構わんよ。

健太郎  はい。

欣二  (隆弘に)この流れで行くと、おぬしの呼び名は、自ずとチン○ンになるな。

隆弘 何でですか!僕は隆弘ですよ、た・か・ひ・ろ!

欣二  安田陳太郎じゃなかった?

隆弘  勝手に変えないで下さいよ!

欣二  わしの記憶間違いか。悪い、悪い。

隆弘  どうしていつもそうふざけてばかりいるんですか。今日くらいまじめにやって下さいよ。もしかしたら歴史的発見につながるかもしれない事件なんですよ、今度のやつは。

欣二  そうじゃった、そうじゃった。じゃあ、ケンケン、あの日何があったか出来るだけ詳しく話してもらえるかな。

健太郎  あの日って、僕がファーストキスを経験した日ですか?

欣二  うむ、そうじゃ。ちなみにわしの場合は、揺れるスワン・ボートの上で嫌がる彼女の…

隆弘  ちょっと、なに釣られてるんですか!

欣二  (遠い目で)デートの前日は、エコバニのLips Like Sugarを聞きまくってあれこれ夢想したもんさ。

隆弘  そんなこと誰も聞いてませんよ!そうじゃなくて、4月○日の夜に何があったかでしょうが、我々が聞きたいのは。

欣二  いかん、いかん。危うくケンケンにのせられるところじゃったわい。ケンケン、やりおるな。

健太郎  ごめんなさい。まじめにやりますので。

隆弘  お願いしますよ。欣二さんも、もう絶対にふざけないで下さいね。

欣二  分かっとる、分かっとる。

隆弘  じゃあ、ケンケンさん、続きをお願いします。

健太郎  (うなづいて)あの日自分は、店が休みだったこともあって、夕方まで家でゴロゴロしていたのですが―

隆弘  そういえば、ケンケンさんは自営業でしたっけ?

健太郎  ええ。

欣二  自営業者か。で、どんな商売なんじゃ?

健太郎  テント屋です。

欣二  テント屋?じゃ、あれだな、二人組になってみんなを笑わせたりしているんじゃな。

健太郎  それはコントです。

欣二  違う?じゃあ、あれか、ランナーを進めるために自らが犠牲になって…

健太郎  それはバントです。僕が言ってるのはテントです、テント。

欣二  分かった、草間彌生のブツブツした…

隆弘  だから、それはドットだって!

欣二  おっ、こいつめ、早くもツッコミがさまになってきおったな。

隆弘  (顔を真っ赤にして)いつまでもそんなことやってたら、話が全然進まないじゃないですか!これ以上ふざけるなら、僕は帰りますからね。

欣二  分かった、分かった。まじめにやるから落ち着くんじゃ。(健太郎に)くだらんことにつき合わせてすまんのう。何せ我々の組織のモットーは、ボケてボケてボケまくれじゃからな。そのせいで、いつもこんな感じになってしまうんじゃ。

隆弘  (プリプリして)そんなモットー、聞いたことないですけどね。

欣二  じゃあケンケン、よろしく頼むわい。

隆弘  欣二さん、もう絶対に邪魔しないで下さいよ。

欣二  分かっとる、分かっとる。

隆弘  では、続きをお願いします。
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健太郎  (コーヒーをゆっくり飲み干して)あの日、自分がひどく奇妙な、まさに未曾有と言えるような数々の奇妙な出来事に遭遇したのは、完全に日が落ちてからのことでした。

隆弘  場所を教えていただけますか?

健太郎  伊勢佐木町から黄金町のあの界隈です。

隆弘  となると、外出されたんですか?

健太郎  ええ。特に予定もなかったので飲みに出ました。

隆弘  時刻はだいたい何時くらいですか?

健太郎  夜の8時くらいだったと思います。

欣二  なるほどな。で?

健太郎  最初は行きつけの店で飲んでいたのですが、その日に限って顔見知りの人間が誰もいなかったので、9時くらいにはそこを出ました。

隆弘  その後は?

健太郎  ちょうど川沿いの桜が満開でしたので、花見がてらあちこちの屋台を一人で飲み歩いていました。

隆弘  川沿いに屋台が出ているんですか?

健太郎  ええ。

隆弘  なるほど。で?

健太郎  どれくらい飲んだか覚えていませんが、いつの間にか川沿いの路地を少し奥に入った場所で眠りこけていました。

隆弘  路上でですか?

健太郎  はい。

隆弘  大岡川沿いの路地とおっしゃいましたが、位置的にはだいたいどの辺りになりますか?

健太郎  ちょうど日ノ出町と黄金町の中間辺りかな。

欣二  ほお。で?

健太郎  通りがかりの人に起こされたのですが、その時自分の両肩が不自然な具合にこんもりと盛り上がっていることに気付きました。

隆弘  両肩がこんもりと?(小声で欣二に)あの辺りは宇宙人の目撃情報も多いですし、これはひょっとして…

欣二  (うなづいて)恐らく宇宙人が埋め込んだチップじゃろ。

隆弘  なるほど…(健太郎に)で、その声をかけてきた人というのは、見ず知らずの人ですか?

健太郎  はい。僕の見間違えじゃなければ、ピンク色の服を着たかなり小柄な男性です。走り去ってしまったので、よくは見えませんでしたけど。

欣二  ピンク色の服を着た小柄な男が走り去ったとな!

隆弘  ほかに目撃者はいましたか?

健太郎  自分一人です。辺りに人気はありませんでしたから。

隆弘  (小声で欣二に)これってひょっとして…

欣二  (うなづいて)ピンキー星人に間違いなかろうて。

隆弘  やっぱり…(健太郎に)で、どうでした、その両肩の謎の膨らみは?

健太郎  自分も最初は寝ている間に何者かにいたずらされたと思ったのですが…

隆弘  思ったのですが?

健太郎  でもすぐに、その日自分が肩パットの入ったXLサイズのジャケットをはおっていたことに気がついて…

隆弘  普通着ないでしょ、この時代に!

欣二  (目を光らせて)ひょっとして、あぶ刑事風の白いダブルのやつ?

健太郎  はい。

欣二  ブランドは?

健太郎  アーストンボラージュ。

欣二  インナーは?

健太郎  白のフリフリシャツ。

欣二  ボトムは?

健太郎  ユニクロのバーゲンで買ったスキニージーンズ。

欣二  ナウイわあ~それ最高にナウイ着こなしだわあ~

隆弘  あんたら揃いも揃ってどんなファッションセンスしてるんですか!しかも、そんなこと宇宙人と何の関係もないでしょ!

欣二  (耳を押さえて)そうガミガミ言わんでもええじゃろ。
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健太郎  まだ続きがあるんです。

欣二  ほお、続きが?

健太郎  (煙草に火をつけて)ちょうどその小柄な男が走り去った後でした、空中に丸々とした謎の光が浮かんでいるのを発見したのは。

欣二  今度は丸々とした謎の光が空中に?

健太郎  (ゆっくり煙を吐き出して)そうです。

隆弘  距離はどうです?

健太郎  近かったと思います。肉眼ではっきり確認出来ましたから。

隆弘  点滅していましたか?

健太郎  いいえ。街灯のように暗闇にぼんやりと光っていました。

欣二  なるほどな。で?

健太郎  その光が赤から青に変わった瞬間に―

隆弘  (身を乗り出して)瞬間に?

健太郎  近くに停まっていた車が急発進して―

欣二  (立ち上がって)あかん、マジUFOじゃ!

隆弘  どう考えても信号でしょ!

健太郎  あの時は、僕もこれはUFO に違いないと思って、膝が震えに震えました。

隆弘  (うなだれて)ううう…

健太郎  おまけに自分のスマホも震えに震えて…

欣二  スマホが震えに震えた?ということは、おぬし恋が始まったばかりじゃな。

健太郎  (照れて)ええ、まあ…

欣二  一番ナーバスな時期じゃからな。今は、お互い常に連絡を取り合っていないと不安でたまらんはずじゃ。

健太郎  おっしゃる通りです。

隆弘  そんな話聞きに来たんじゃねえし…

欣二  恋とオシャレが手を取り合って同じ道を行くものなら、実際そうなんじゃろうが、ダブルのジャケットからのこの流れは必然じゃわい。

隆弘  (声を荒げて)二人ともしっかりして下さいよ!話が脱線してばかりで、ちっとも前に進まないじゃないですか。

欣二  ほんに、せっかちな男じゃな。だからおぬしはモテんのじゃ。

隆弘  モテようがモテまいが、そんなことUFOや宇宙人と何の関係もないじゃないですか!これ以上ふざけるなら、僕は帰りますからね。

欣二  悪かった、悪かった。(健太郎に)わしらも予定が詰まっているんでね。急かしてすまんが、話を進めてくれるかな。で、どうなったんじゃ、ピンク色の男が走り去ってからは。

健太郎  (煙草をもみ消して)まだ少し飲み足りない気がしたので、どこかの店に入ろうとしたのですが、かなり酔いが回っていたみたいで、歩き始めてすぐにまた路上にヘナヘナと座り込んでしまいました。その場でしばらく座ったり起きたりを繰り返していたのですが、やがてひどく冷たい手をした何者かが両脇から自分を支えるのが分かりました。

欣二  (目を細めて)冷たい手をした何者かが両脇から?

健太郎  そうです。まるで氷のように冷たい手でした。

隆弘  二人組ですか?

健太郎  恐らく。酔っていたのでよくは覚えていませんが。

隆弘  (欣二に小声で)これって…

欣二  氷のように冷たい手から判断するに、恐らくガリガリ星人じゃろう。

隆弘  そうですか…(健太郎に)で、その後どうなったんですか?

健太郎  薄暗くて狭苦しい場所に連れて行かれました。

隆弘  薄暗くて狭苦しい?

健太郎  はい。

隆弘  やはり大岡川沿いのどこかですか?

健太郎  分かりません。ほぼベロベロの状態でしたから。

隆弘  (小声で欣二に)UFOの船内に運ばれた可能性がありそうですね。

欣二  恐らくな。睡眠薬で眠らされて運ばれたんじゃろ。

隆弘  なるほど…(健太郎に)ほかに何か覚えていることはありますか?

健太郎  時折扉を開けたり閉めたりする気配がしました。

隆弘  扉を開けたり閉めたり?

健太郎  ええ。しかも、そのたびにかすかに人間の叫び声のようなものが漏れ聞こえてきました。

隆弘  人間の叫び声が?(小声で欣二に)これってまさか…

欣二  恐らく人体実験じゃろう。くわばら、くわばら。

隆弘  (息をのんで)人体実験!

欣二  で、その後どうなったんじゃ?

健太郎  しばらくすると、頭のすぐそばでヒュンヒュンと不気味な電子音のようなものが聞こえ始めました。

欣二  不気味な電子音ねえ。で?

健太郎  やがて誰かが大声を上げ始めたのですが、その声がまたひどく風変わりな声だったのを覚えています。

隆弘  どんな声です?

健太郎  強いて言うなら、ヘリウムガスを吸った時のような声でしょうか。

隆弘  ヘリウムガスを吸ったような声!欣二さん、これは…

欣二  (うなづいて)ガリガリ星人同士の交信と見て間違いなかろうて。

隆弘  やっぱり…(健太郎に)どんな内容のことを叫んでいたか覚えていますか?

健太郎  そうですね、僕の記憶が確かなら―

隆弘  確かなら?

健太郎  「手をあわせて みつめるだけで~♪」

欣二  (立ち上がって)あかん、噂のガリガリ星人じゃ!

隆弘  カラオケボックスでピンクレディー歌ってただけでしょ!

健太郎  今思い出しましたが、その時歌っていた人は、最近喉の手術をしたばかりだと言ってました。

隆弘  それを先に言って!
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―後篇に続く―



by bari-era | 2014-05-24 02:04

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